リモートワークの導入により、そのメリットを享受し、定着していった企業がある一方で
「やっぱりリモートワークは大変」
と、断念してしまう企業もあります。
この差は、どのようなところにあるのでしょうか。
実は
- パソコンなどの機器
- インターネット環境
- ツール
といった、物理的な準備と同じくらい大切なこととして、「働く環境を整えること」があります。
ここでいう「働く環境」とは、勤務条件や福利厚生などではなく、仕事をスムーズに進めるための、主にコミュニケーション環境を指します。
立場やバックグラウンドが違えば、「常識」も違ってきます。
それぞれの立場で、それぞれの常識を尊重しながら、スムーズにリモートで仕事を進めるには、リモートワークならではのルールや、コミュニケーションのコツがあります。
このあたりについて、事例を交えながらご紹介します。
コミュニケーションルールの設定
勤務を開始して数週間が過ぎたころ、在宅秘書さんから下のようなご相談が寄せられることがよくあります。
深夜に社長からチャットが届くことがたびたびあります。
起きているときは、一言返信したり、リアクションをしているのですが、なんだか落ち着きません。
社長としては、「後回しにして忘れてしまわないうちに、ひとまず送っておこう」という程度のことだったのですが、夜中にもチャットが届く秘書さんにとっては、常に仕事をしている感覚になってしまい、気が休まらないというお悩みです。
このような状況を解消する方法として、緊急案件以外は
- お互いに、業務時間外にチャットが届いても、原則として返信不要
- お互いに、「次の業務時間の対応(返信)でOKです」と添える
というルールを、最初に取り決めている企業もあります。
そうすることで
「返信がないけど、見ているのかな?」
「えっ、こんな時間にチャットが・・・。返信すべきかどうするか・・・」
などという、よけいな迷いやストレスを、お互いが感じずに済むようになります。
このような簡単なルールを設定するだけでも、心理的安全性が高まります。
お互いの常識を共有する
ご自分の「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」を認識していますか?
アンコンシャス・バイアスとは、過去の経験や知識、価値観、信念をベースに、「ふつう〇〇だよね」と自動的に認識しているものです。
例えば、あなたは、お客様からのメールには、ふつう何時間(何日)以内に返信するものだと思っているでしょうか?
これは、人によって差があり、
「ふつう、24時間以内でしょう」という人もいれば、
「ふつう、3営業日以内でしょう」という人もいます。
人によっては
「いやいや、メールを見たら、即返信でしょう」というケースも。
こういった、お互いの「ふつう」が共有されていないことにより、上司から
「お客様からのメールを、何日放置するんだ!」と叱られたという秘書さんも、実際にいます。
上司としても、毎日顔を合わせて仕事をしている環境なら、部下へその場で気軽に確認したり、行動からなんとなく察することができますが、リモートワークとなると、すぐに聞くことも難しく
「いつになったら対応するつもりだろう・・」
「そもそも、わざわざチャットで聞くことだろうか・・」
と、一人でモヤモヤしてしまうこともあります。
この程度のことであればまだしも、プライベートな事情が絡んだり、信頼関係にまで大きく発展してしまうと、ハラスメントにもつながりかねません。
- お互いの「ふつう」が異なることを認識し、尊重する
- お互いの「ふつう」を
「早めに」などという曖昧な表現ではなく、「〇日以内に」など具体的な言葉で共有する
このことにより、リモートでも働きやすい環境が整います。
ちょっとした雑談ができる環境を作る
リモートワークでは、ともにランチタイムを過ごすこともなければ、仕事の合間の雑談もありません。
Zoomなどを使い、ミーティングを行うことはあっても、業務に関する話だけ、という企業も多いようです。
このような環境の場合、在宅秘書さんとしては、ちょっと気になることがあっても
「わざわざチャットで書くほどでもないし・・・(チャットで書いてしまうと、重い話になってしまいそうだし)」
「ミーティングの場では切り出しにくいし・・・」
と思い、相談することを躊躇する傾向にあります。
そのような時に、ちょっとした雑談のできる環境があると、気軽に相談がしやすくなります。
具体的な例としては
- 特に議題などを設けず、一定時間オンラインでつないだまま業務を行う
(オフィスで机を並べている感覚) - ミーティングの後に、雑談タイムを設ける
- チャットツールに、雑談用のチャットテーマを設ける
- オンラインのランチタイムを設定する
などの方法があります。
このような場で、社長や上司の方から、プライベートを開示したり、ご自身の思いを共有することで、意外な共通点が見つかるなど、精神的な距離が近くなることもあります。
社長や上司の立場からすれば「そんなこと、早く言ってくれればいいのに」と思われることでも、立場が変われば言い出しづらいものです。
同僚や部下との信頼関係があってこそ、リモートワークは成り立つと言っても過言ではないでしょう。